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ウサギのナミダ ACT 1-2 ■ 休みの日、マスターは朝早く起き、天気が良ければ近くの公園まで散歩に連れていってくれる。 わたしはこの朝の散歩が大好きだ。 ぴんとはりつめたように澄んだ空気、ひんやりと頬をなでる風、そして蒼く遠い空。 世界はこんなにも広く、きれいなのだと実感できるから。 そして、いつもは厳しい表情のマスターも、このときは少し優しい表情で一緒にいてくれるから。 わたしは、マスターの上着の胸ポケットから顔を出し、朝の世界を眩しく見つめた。 マスターの住まいから歩いて五分ほどで、目的の公園に到着する。 マスターによれば、この界隈では一番広いのだそうだ。 公園内は遊歩道が整備されており、昼間は散歩する人や、走り回る子供たち、のんびりと歩むご老人のみなさんなどがやってくる憩いの場だという。 わたしもジョギングをする人を見たことがある。 でも、日曜日の早朝は、たいてい誰もいない。 今日も人影はなく、わたしたちだけが公園内へと入っていく。 わたしは、マスターを見上げ、 「マスター」 声をかけた。 マスターがわたしを見つめる。 この人の視線はいつも厳しく感じられるけれど、いつもまっすぐだ。 わたしは小首を傾げるようにして、おそるおそるマスターを見た。 するとマスターは口元だけかすかに笑ってくれた。 「よし、行け」 マスターの許可が出た。 わたしは思わず笑顔になり、マスターの胸ポケットから飛び出した。 わたしの身長の何倍もの高さから、空中に躍り出る。 こわがらず、そのまま着地。 膝のクッションを効かせて、着地の衝撃を吸収する。 衝撃を完全に吸収してくれたのは、わたしに両脚に装着されたレッグパーツ。 マスターが作ってくれた、わたしのオリジナル武装だ。 わたしは、身体が沈み込んだ反動を利用して、前方に飛び出す。 レッグパーツのホイールが甲高い唸りを上げる。 わたしは腕を振ってバランスを取る。 一気に加速し、疾走を開始する。 風になる。 ここからはわたしの大好きな時間。 遊歩道を走る、疾る。 思うさま疾駆する。 ものすごい勢いで流れていく公園の木々。 風に溶けていくような感覚。 なんともいえない解放感がわたしを包む。 それは何度感じても、嬉しくて気持ちのいいものだった。 公園を囲む遊歩道の二つ目の角が見えた。 わたしはそこで体を起こし、スピードを落としながら一八○度ターンをする。 簡単なトリックだけど、きれいに決まったのが嬉しい。 わたしはまた前傾姿勢で走り出す。 わたしの大好きな時間の最後には、マスターが待っていた。 左の肘を水平に突き出して立っている。 瞳はわたしに不敵な視線を送っている。 これは課題だ。 神姫のわたしにマスターが出題するパズル。 わたしは、あのマスターの左肘に着地しなくてはならない。 先週は、マスターがベンチに座っていたから、難易度が上がっている。 わたしはスピードを落とさずにマスターへと駆け寄る。 そして走りながら、マスターの肘へと至るルートを見定める。 最後の数メートルを滑走し、タイミングを計ってジャンプ! わたしは、マスターの肘の先にあった公園の植木に飛びつくと、木の幹にホイールを走らせて、巻き付くように登り出す。 一気にマスターの肘の上まで登ると、そこでまたジャンプ。 着地点を見定めながら、一回転一回捻り。 回転を終えた瞬間、わたしはすとん、とマスターの肘の上にお尻から着地して座った。 「よし、上出来だ」 わたしのトリックプレイに、マスターは素っ気ない口調で、そう言った。 わたしは、さっきよりも和らいだマスターの表情を見つけて、やっぱり嬉しくなった。 にこりと笑顔をマスターに贈り、わたしは再びマスターの胸ポケットに滑り込んだ。 わたしの大好きな時間はこれでおわり。 でも、マスターの住まいに帰るまでの間、嬉しさでいっぱいになったわたしの胸はずっと高鳴っていた。 □ 散歩が終わり、朝食を食べて一休みしたら、俺は最寄りの駅前にあるゲーセンにティアを連れて向かった。 ティアをバトルにデビューさせて二ヶ月が経つ。 週末はずっとこんな感じで、散歩のあとでゲームセンターに足を運んでいる。 武装神姫のバトルは、公式の神姫センターや神姫を扱っているホビーショップなどでも楽しむことができるが、俺はもっぱら近場のゲーセンだった。 足を運びやすいのが一番の理由である。 もう一つはティアの武装だ。 ティアのレッグパーツは、俺が部品を集めたり作ったりして組み上げたオリジナルだ。 公式武装がメインの神姫センターは出入りしにくい。 雑多な神姫達が集まるゲームセンターの方が都合がいいのだ。 まだ昼前の時間帯で、ゲームセンターの武装神姫用筐体の周りもあまり賑わっていない。 その方が都合がいい。 むしろそれを狙って、少し早い時間帯に来ているのだ。 俺は対戦用の筐体に座ると、ティアをポッドに収め、サイドボードに武装を並べる。 ここでのバトルは、基本的にコンピューターを介したバーチャルバトルである。 俺はステージを「廃墟」に固定し、一人用のミッションモードを開始する。 コンピューターの出す課題を次々にクリアしていくこのモードは、一人でもバトルができるが、訓練に過ぎない。 俺はティアに細かく指示を出しながら、黙々とミッションを消化した。 つまりはこうして対戦者を待っているのだ。 対戦者待ちをするのには理由がある。 ティアの戦闘スタイルの特性上、市街戦しか有効に戦えないのだ。 つまり、ステージを固定するために、乱入者を待っている。 ……そう思っている間に、早速乱入者がやってきた。 三戦ほどやって、負けたところで席を立つ。 今日はいずれも地上戦メインの神姫とのバトルだった。 よく手合わせをする、顔見知りの常連さん達だ。 負けを喫したのは、バッフェバニー・タイプ。 あの神姫はティアよりも火力がある上に、機動性能もいい。ミリタリーファンに好まれる神姫だけに、市街戦での戦術は見事だった。 俺は神姫バトルを映し出す大型モニターを眺めながら、缶コーヒーを開けた。 「ティア。今のバトル、何が問題だった?」 俺は胸ポケットから顔を出すティアに尋ねる。 負けた後は、必ずこうしてバトルの検討をする。 俺たちは決して強いわけではない。 オリジナルのバトルスタイルを確立するため、細かく検討する必要があるのだ。 「えと……相手がビルにうまく隠れて、なかなか攻撃できませんでした」 「そうだな。市街戦の腕前も相手の方が上手だった。位置取りがうまかった」 「あ、あと、相手の攻撃にさらされることが多かったと思います」 「……こっちの行動パターンが研究されているかな」 「かもしれません……前に戦ったときとは違うタイミングや方向から攻撃を受けたような……」 バッフェバニーは銃火器による攻撃がメインだから、ティアは狙いをはずすような機動を心がけて戦うことになる。 ビルの壁や屋根も縦横無尽に駆け回るティアを、幾度と無く捕捉できるというのは、やはり行動パターンが読まれているのか……。 「いよう、遠野! 調子はどうだ!?」 人の思考を大声でぶちこわして現れたのは、革ジャンを着た派手な男だった。 「……大城、もう少し声を抑えてくれ。それでも聞こえるから」 「おお、うるさかったか? そりゃすまん、わっはっは」 なおのことうるさくしゃべるこの男は、大城大介。 以前バトルしたティグリース・タイプのオーナーだ。 おそらくは今も外に駐車してあるだろう、ごっついバイクを乗り回し、神姫にもエアバイク型のメカに乗せている。 シルバーのアクセサリーをこれでもかと身につけ、派手な柄のシャツに革ジャンという出で立ちは、どこからどう見てもヤンキーである。 バトルの後、難癖付けてきた大城を言い負かしたのだが、なぜか次に会ったときにはやたら気さくに声をかけてきた。 それ以来、俺の姿を見つけては声をかけてくるようになった。 俺たちのどこが気に入ったのだろうか。 それは目下、俺にとって最大の謎であった。 「……そっちは、来たばかりか?」 「おう。虎実のマシンの整備に手間取ってなぁ」 大城の肩を見ると、そこに彼の神姫・虎実が座って、こちらを睨みつけていた。 「……よお、虎実」 声をかけると、ぷい、とそっぽを向いた。 俺は小さく肩をすくめる。 虎実はいつもこんな調子だった。オーナーの大城の態度とは正反対だ。 「悪いな。こいつもほんとは照れてるだけなんだ」 「ばっ……! 照れてなんかいねぇ! 慣れ合うのがイヤなんだよっ!」 ムキになって否定するが、大城はせせら笑っている。 大城がからかい、虎実はさらにムキになる。 この漫才は、とうとう頭に来た虎実がクローを装備し、大城の顔をひっかくまで続くのだ。 ゲームセンターに通うようになって、俺の生活も変わった。 こうして神姫のオーナーたちと一緒に過ごす時間は、いままでの俺の生活にはなかった。 武装神姫を始めなければ、大城などとは一生会うことも話をすることもなかったかもしれない。 そう思うと、神姫はただバトルをするだけの存在ではなく、オーナーたちの枠を広げ、知らない世界を見せてくれる存在なのだと実感する。 「おっ?」 虎実にひっかかれ、顔中をミミズ腫れにした大城が、ゲーセンの入り口に注目した。 「遠野、あそこ見ろよ」 そこには一人の少女がいた。 大城は女の子に目がないので、妙にめざといのはいつものことだ。 だが、大城が注目するのも無理ないと思わせるほど、その少女は美人だった。 ショートカットにした髪と細いジーパンという装いのせいか、活発そうな印象だ。 手には、神姫収納用のアタッシュケースを下げている。 彼女はきょろきょろと店内を見回している。 「神姫のオーナーか……?」 俺が呟く。 すると、その声が聞こえたかのように、少女はこちらを見た。 視線が合う。 すると、少女はまっすぐこちらへやってきた。 隣で大城がなにやら喜んでいるような気配がするが、あえて無視した。 「こんにちは」 とても気さくな挨拶が、微笑みとともにすっと入り込んできた。 「こんにちは!」 「誰かお探しですか」 大城の挨拶が終わるのを待たずに、俺は本題を切りだした。 すると、彼女はちょっと驚いた顔になったが、すぐに落ち着いて、こう言った。 「ええ。……ハイスピードバニーのティアっていうオリジナルの神姫をご存じですか? このゲーセンがホームグランドだって聞いたんですけど」 俺と大城は顔を見合わせた。 「ハイスピードバニー?」 「はい。なんでも地上戦専用の高機動タイプで、バニーガールの姿をしているとか。とても 特徴的な戦い方をすると噂に聞いています」 「……それで名前がティアなら、俺の神姫かもしれないけれど……」 「ほんとですか!?」 このショートカットの美少女は声を上げて、にっこりと笑った。 ほとんど反則な笑顔だ。 「よかったぁ。会えないと大変なんですよ。何度も通わなくちゃいけないし」 「しかし、ハイスピードバニー?」 彼女が口にした呼び名だ。 そんなベタな名乗りを上げたことはないはずだが……。 「この近辺では有名ですよ。みんなハイスピードバニーという二つ名で呼んでますね」 俺は苦い顔をした。 あまり目立たないように戦ってきたつもりだったが、やはり特徴的な戦闘スタイルが目に付くのか。 しかも、二つ名まであるのか。 そんな心配と同じくらい、ひねりのないネーミングに不愉快になる。 「それで、君はわざわざ、ティアと戦いに来たというわけ?」 「はい。遠征して、いろいろなタイプの神姫と戦うのが好きなんです」 この少女は、迷い無くはきはきと答える。 年の頃は、俺と同じか少し下くらいだろうか。 武装神姫のプレイヤーにはとても見えない。 テニスか何かをやっていると言われた方がよほど現実味があった。 「バトルしてもらえませんか? 私の神姫と」 「君の神姫は……」 「ここよ、ここ」 小さな声がしたのは、彼女の肩あたり。 いつのまにか、一体の神姫が、少女の右肩に座っていた。 特徴的な巻き髪を揺らしながら、にこにこと笑っている。 「イーダ・タイプか……」 イーダ・タイプは高機動タイプのトライク型だ。 地上戦専門の神姫だし、確かにティアとは噛み合うだろう。 だが、本体がイーダ・タイプだからと言って、武装までそうだとは限らない。 「ミスティよ。よろしくね」 神姫は自らそう名乗った。 それを聞いた大城がいきなり叫びだした。 「イーダのミスティと言えば! もしかして、エトランゼ!?」 「……まあ、そんな呼ばれ方もしてますね」 「エトランゼ?」 俺は大城の方を向いて尋ねた。 すると、大城は大きなため息をついて、俺を見る。 「遠野、おまえは俺よりも神姫に詳しいくせに、なんで他のプレイヤーや噂には疎いんだ……」 失敬な。雑誌に出るようなプレイヤーたちなら俺だってチェックしてる。 大城はまたひとつため息をつきながら、俺に解説してくれた。 「『異邦人(エトランゼ)』のミスティと言えば、この沿線あたりじゃ有名な神姫だぜ。 噂になっているような強い神姫を相手にするために、あちこちのゲーセンやホビーショップの対戦台に現れる凄腕の神姫プレイヤー。 腕前もかなりのものらしい。それなりの腕の神姫をあっさり負かしたりするそうだ。 で、その神姫のマスターは、結構な美少女って噂だけど……」 大城はちらりとミスティのマスターを見た。 「噂通りってとこだなぁ」 彼女は困ったように笑っている。 「それで、あなたの神姫は? 今日は連れてきてないですか?」 「いや……ティア」 俺がそっと促すと、胸ポケットから、ティアがおずおずと顔をのぞかせた。 「わぁ、かわいい!」 少女は身を屈めて、俺の胸ポケットをのぞき込む。 ティアは恥ずかしいのか、半分顔をポケットの縁で隠しながら挨拶した。 「こ……こんにちは……」 「こんにちは」 返事を受けて、ティアはますます顔を隠してしまった。 「ティアは照れ屋さんなのかな?」 「ああ、ちょっと人見知りでね」 「噂通り、うさ耳なんですね。かわいいなぁ」 少女は無邪気に笑う。 なんだか、この笑顔に調子を狂わされっぱなしだ。 「それで、どうですか?」 「え?」 「私のミスティとバトルです」 「ああ……」 無邪気な笑顔とバトルという言葉に違和感を感じて、俺は少し戸惑う。 だが、断る理由がない。名の知れた、しかも地上型とのバトルなら歓迎だ。 「ティア、どうだ? やれるか?」 「マスターが……戦いたいというのなら」 俺は頷くと、少女に向き直った。 「フィールドは、廃墟か市街地。それでもいいかな?」 「望むところです」 そう言って、少女はにっこりと笑い、空いている筐体に歩み寄った。 俺も筐体の反対側へと移動する。 まばらだったギャラリーが、少しずつ俺たちの座る筐体の前に集まりだした。 まだ始まってもいないバトルにギャラリーがつく。 彼女の知名度と、俺たちの注目度は、俺が思っている以上のものであるらしい。 筐体のサイドボードに武装を並べ、バトルの準備をしていると、脇に大城がやってきた。 「なんだ、大城? 彼女の側で見てなくていいのか」 「おまえの次に、俺が対戦申し込むんだよ。おまえの戦略、しっかり見せてもらうからな」 すごみのある笑い。 なるほど、俺から戦略を盗もうという寸法か。 「だったら、一つ教えてくれ」 「おう、なんだ?」 「ミスティは地上型か、それとも違うタイプか。知っているか?」 「噂じゃ、普通のイーダだって話だな。 バトルを見た訳じゃないから、本当のところはわからんが、イーダのくせに、飛行型の神姫もあっさり倒すんだそうだ」 「本当か?」 「まあ、噂だがな」 大城は肩をすくめた。 その噂が本当だとしたら、ミスティは相当な実力の持ち主だ。 地上型の神姫が、飛行型の神姫から勝利を奪うのは難しい。自分より上にいるというだけで有利なのだ。 それをあっさり覆すということは、何か特別な力がある可能性が高い。 それが装備なのか、戦術なのか、策略なのかはわからないが…… 用心に越したことはない。 俺はそう判断する。 筐体の向こうを見てみれば、ミスティのマスターと目があった。 不敵な微笑み。 バトルに向かうにふさわしい表情になった。 なるほど、彼女も確かに神姫プレイヤーなのだ。 それでは始めよう。 俺はティアをアクセスポッドに送り込み、スタートボタンを押した。 次へ> トップページに戻る
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概要 神姫ピックアップ 神姫お迎え 武装購入 アップデート履歴 コメント 概要 神姫や武装などを購入する事が出来る機能。 稼動当初はバトル終了後に1体または5体の神姫をお迎え出来るだけだったが、シーズン2となってからは神姫ハウス画面のタッチメニューから行ける様になり、機能自体もかなり向上した。 神姫ピックアップ シーズン2移行後、2023/02/13のアプデで実装された機能。 「神姫実装数に対してあまりにも神姫ショップ内のお迎え確率が渋すぎる」 「偶にピックアップが開催されても期間が短過ぎて実質意味がない」 といった声は稼動当初からSNS上にて度々寄せられていたものだが、おそらくはこれらを受けての実装となる。 対象となる神姫は一度につき3種。一定期間(大体半月程度)で変更される。 ちなみにリストを見れば一目瞭然だが、2023年7月末までは同メーカーあるいは準同型機(リデコやカラバリ)にあたる神姫が続けて登用されやすい傾向にあったが、それらに当てはまらない神姫達のピックアップが同年8月上旬になされて以後、対象神姫はその都度シャッフルされるようになった様子。 + 開催期間と対象神姫はこちら 開催年 開催日程 対象神姫 2023 2/13~2/27 アーンヴァル・アーク・アルトレーネ 2/27~3/13 ストラーフ・イーダ・アルトアイネス 3/13~3/27 ジルダリア・ウェルクストラ・ラプティアス 3/27~4/10 ジュビジー・ヴァローナ・アーティル 4/10~4/24 エウクランテ・フブキ・オールベルン 4/24~5/8 イーアネイラ・ミズキ・ジールベルン 5/8~5/22 ヴァッフェバニー・ムルメルティア・紗羅檀 5/22~6/5 ヴァッフェドルフィン・飛鳥・ベイビーラズ 6/5~6/19 アーンヴァルMk.2・サイフォス・ブライトフェザー 6/19~7/3 ストラーフMk.2・紅緒・ハーモニーグレイス 7/3~7/17 アーンヴァルMk.2テンペスタ・ツガル・ガブリーヌ 7/17~7/31 ストラーフMk.2ラヴィーナ・フォートブラッグ・蓮華 7/31~8/14 エーデルワイス・シュメッターリング・レイシス 8/14~8/28 アルトレーネ・イーアネイラ・ストラーフMk.2 8/28~9/11 アーク・ジルダリア・飛鳥 9/13~9/26 ジュビジー・エウクランテ・紗羅檀 9/26~10/10 ジールベルン・蓮華・ハウリン 10/10~10/24 ガブリーヌ・シュメッターリング・ジルダリアB 10/24~11/7 ストラーフ・ヴァッフェドルフィン・ハーモニーグレイス 11/7~11/21 イーダ・フブキ・マオチャオ 11/21~12/5 紅緒・レイシス・マリーセレス 12/5~12/19 アルトアイネス・ヴァッフェバニー・アーンヴァルMk.2 12/19~ アーンヴァル・ラプティアス・ツガル 2024 ~1/2 1/2~1/16 ムルメルティア・フォートブラッグ・エーデルワイス 1/16~1/30 ヴァローナ・オールベルン・ベイビーラズ 1/30~2/13 ウェルクストラ・アーティル・ブライトフェザー 2/13~2/27 ミズキ・アーンヴァルMk.2テンペスタ・ストラーフMk.2ラヴィーナ 2/27~? (ピックアップなし) なお2024/02末からは実装を外されている状況だが、果たして……? 神姫お迎え 1クレジット1体/5クレジット5体のお迎えとなる点は稼動当初と同じだが、バトル後1回だけ出来た従前と違って何度でも行う事が出来るようになった。 ただし、5体お迎え時にあった好感度アップアイテム(ヂェリカン)ボーナスと、ついでにSSS.てんちゃんの出番はなくなった。 また(おそらくは容量問題対策によるものか)お迎えされた神姫達の身振りもなくなり、ただ棒立ちで台詞を言う(ボイスは残置)のみとなっている。 (↑)その後のアプデによって、シーズン1当時の身振りは無事復活した。 なおUR神姫のみ、お迎え時の演出がより派手になっている。ゲーミングクレイドル 今回からはお迎え時にレアリティ・個体値も判明するようになったが、サイズと6V個体の識別についてはお迎えした神姫を「再読み込み」機能で読み込むか、従前のようにカードコネクトでカード化する必要がある(その前に「カード管理」画面で当該神姫のカード化を選択しておく事)。 そして言うまでもない事だが、ガチャり過ぎには要注意。 武装購入 1クレジット10個、3クレジット30個のどちらかを選べる。 後者の場合、ボーナスとして神姫ハウスにいる神姫の固有武装6個を貰う事が出来るようになった。 従来のジェムバトル時に出現していたコンテナが、シーズン2では出現しなくなった事に対する救済と思われる。 特定神姫の装備を集めたい場合、神姫ハウス内の神姫の種類を統一してガチャればいいという事になる。 従前のようにジェムバトル上のコンテナ争奪戦を経る事がないため確実に入手出来る(ついでに当時より1個増えた)のは大きいが、こちらもガチャり過ぎに要注意。 なお、前述「神姫お迎え」画面から外されたSSS.てんちゃんの姿は、こちらで見る事が出来る。 アップデート履歴 日時:2023.01.24 内容:シーズン2移行に伴い実装 日時:2023.02.13 内容:「神姫ピックアップ」機能実装 コメント 名前 コメント
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プロローグ 西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった。 20世紀末から、ほとんど、なんの変化もなく、ただムーアの法則を若干下回る程度に市販コンピューターの性能は上昇しつづけた。 そんな時代に新しい形のコンピューターガジェットが誕生する。 神姫、そう呼ばれたその新しいコンピューターガジェットは、身長15センチほどの少女の姿をした、フィギュアロボだった。 汎用性を兼ね備えたそのガジェット……神姫は玩具として発売されながら徐々にその認知度を上げていき、現在、1990年代における携帯電話なみには、普及し始めていた。 心なんて、信じない。 父さんと母さんが離婚したのは、僕が十歳の時だった。 原因は母さんの浮気。 勿論当時の僕には、そんなことは教えられなかった。 ただ父さんが口癖のように、「母さんは俺たちを裏切っんだ」と言っていたのはいまだに耳にこびりついている。 だけどこの情報化社会、十歳ともなれば、大体ことの次第は想像がつく。 人の世界がどの程度の悪意で出来ているのか、おのずと分かってしまうというものだ。 父さんは母さんから親権を取り上げ、自分ひとりで育てることにした。 別に僕を愛していたからじゃない。 母さんが、親権を欲しがったからだ。 ただ母さんの裏切りに対する復讐として、優秀な弁護士を雇い、母さんから一切の親権を取り上げた。 そんな父さんは母さんと別れてからますます仕事に没頭するようになった。 折角勝ち得た僕っていう『トロフィー』を手放す訳にもいかないらしく、生活費だけは潤沢に与えられた。 他人と話すことなんてほとんどなく、ただお金だけ与えられて過ごしていた僕は、学校にもほとんど行かなくなり、毎日、与えられた金銭で気に入ったコンピューターや機械類を買って、それをいじって遊んでいた。 心のない機械たちを分解、解析して組み立てる。 そんな行為だけが、僕を楽しませていた。 そして、僕が形だけ中学生になった頃…… 「よし……っと……」 買ってきたばかりのコアとボディをセットして、その胸にムーアの法則の最後の守り手とまで言われた、超高密素子CSCをはめ込む。 一緒に買ったクレイドルにボディを寝かせ、接続したパソコンから起動用のアプリケーションを操作する。 途端、炉心に火がついたような低い唸りがCSCから響き始めた。 「Front Line製 MMS-Automaton神姫 悪魔型ストラーフ FL013 セットアップ完了、起動します」 そして、鈴を転がすような少女の声が、僕の耳に届いてくる。 パソコンのスピーカーから……じゃない。 クレイドルに横たわる小さな女の子の唇からだ。 ゆっくりとその小さな女の子がクレイドルから立ち上がる。 「さすがに、良く出来てるなあ……」 「あなたが、わたしのマスターですか?」 「あ、うん。そうだよ。僕がおまえのマスターだ」 「認証しました……マスターの事はなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」 「普通に、マスターでいい」 淡々とつむがれる質問に、僕も淡々と答える。 「神姫に名前をつけていただけますか?」 「名前?」 「はい、MMS国際法に基づき、各神姫には単一オーナーによって名づけられた登録名が必要になります」 ……機械に名前をつける趣味はないけれど、それぞれの神姫には名前を与えて自分一人だけをマスター登録するのがMMS国際法によって決められている。 確かそんなことが事前に読んだMMSや武装神姫の本に書いてあった。 「じゃあ……ジェヴァーナ」 「ジェヴァーナ……神姫名称登録」 そっとその神姫が目を閉じて、自分の名前を確認する。 そして、再び目が開くと…… 「ふうん、ジェヴァーナ……か、それがボクの名前ね? うんうん、気に入ったよ!」 「……へ?」 さっきまでの機械的な話し方とは違う、弾むような声が僕の耳に響く。 「ん? なにぼーっとしてんのさ? マスターが付けた名前で合ってるよね?」 「い、いや、それは、そうだけど……」 突然の変貌振り……というよりも、ここしばらく他人のペースで会話をさせられる事が無かったせいで、なにを言っていいのか混乱してしまう。 「とにかく、これからよろしくね! マスター!」 握手のつもりなのか僕の人差し指を掴んで、ぶんぶんと縦に振る。 「う、うん……」 結局、そう答えるのが精一杯だった。 思えば、この時から気づき始めていたのかもしれない。 武装神姫……ジェヴァーナに『心』があるっていうことに。 「戻る」 「進む」
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G・L《Gender Less》、それは失う事、狂う事。では、アイデンティティを失い、それでも尚“生きる”事を選択した神姫には、まだ何か失っていない部分、狂っていない部分があるというのだろうか? 否。それは人間になど推し量れる筈は無い。何故ならば、“アイデンティティを設定された人間など居ない”のだから。 G・L ~Gender Less~ 第1章 狂犬 闇、闇。飛、飛、飛、黒。 冬の夜の住宅街に飛び込む、3つの闇。それは3人の武装神姫。2人のアーンヴァルは装甲を黒く彩り、先頭を行くストラーフも【悪魔の翼】で軽快に飛ぶ。 飛来、飛来飛来、着地。開線。 「・・マスター、目標地点に到達」 一軒家の塀に降り立つ闇。ストラーフが無線を繋ぎながら、暗視スコープで周囲を警戒する。 『よし、周囲に誰もいないな? クロト、ラケ、アトロ、予定通りに1階南側の換気扇から進入しろ。今なら2階にガキが居るだけの筈だ』 「了解。以降無線封鎖します」 『期待しているぞ、お前達』 断線。飛、飛、飛。 「「「マスターの、為に!!」」」 MMSの暗部、その一つが犯罪への転用。未だ表面化していないとは言え、それは確かに増加していた。神姫も例外ではない。その為に法による登録の厳正化、機体リミッター、論理プロテクト等が存在するのだが、禁を破るのが人の世の常、そして完全なるプログラムなど存在しないのもまた、世界の常識。 今、不法侵入を試みる彼女達もその産物。違法改造コードによるプログラム改変、そして、“歪んだ愛”に彩られた武装神姫。主の為にと、彼女達は望んで、その手を罪に染める。 分解、解体。 慣れた手つきで換気扇を分解していくのはストラーフタイプの長女アトロ。残る妹達は周辺警戒をしている・・が、末のクロトは暇そうにあくびまで立てる。 「後少しでファンが外せる。警戒怠るな・・特にクロト」 「だあ~ってヒマなんですもん。マスターも言ったように誰も来る訳無いしぃ、ついでに寒いしぃ。ラケ姉さまもそう思うよね?」 「・・・」 クロトの問いにも、ラケは眉一つ動かさず、只黙々と警戒を続ける。同じアーンヴァルタイプと言えど、CSCによって刻まれた“心”はそれ程にも違う。 「あ~もうラケ姉さまもつまんないぃ~! 早く帰ってマスターと遊びたいぃ~!!」 「クロト! お前のその喧しい声が誰かに聞こえでもすれば忙しくもなろうが、そうすればマスターにお叱りを受ける事、判っているのか?」 「は、はいぃ」 アトロの怒号で、クロトはその小さい体を項垂れる。 分解、解体。 「あ~、少し曇ってるな~。お星様、なんにも見えないや。お月様は今新月だっけ?」 分解、解体。 「そう言えば、コレ上手くいったら、マスター新しいパーツ買ってくれるかな? アタシあのうさみみ付けてみたいぃ~♪」 分解、解体。 「ねえねえラケ姉さま、しりとりしない? じゃあアタシからね。え~っとぉ~、わ・・・」 分解、解体・・・止。 「アトロ、いい加減に!・・・」 轟粉砕。 「わぱひゃ!?」 「・・・わぱ・・?」 「・・・・!!?」 緩、落下、崩。 始め、それはクロトのいたずらと思い、また作業も終わりに差しかかっていたのでアトロは無視しようとしていた。 「・・・!!!」 急降下、抱、受止。 だが、無言のまま血相を変えて降下したラケの姿に、彼女は異変と感じ、彼女達の方を覗き見た。 「・・・! クロ・・ト!?」 「ら、ぁ、あらけ、kkkelaaa・・・」 そこにあったのは次女に抱かれた、グロテスクに破壊された三女の姿。頭部は左半分が潰され抉られもぎ取られ、左の乳房ごと腕はどこかに吹き飛んでいた。当然ウイングも跡形もなく、そして、壊れた言葉も途切れ、彼女は・・・ 崩、壊、停止。 「・・・・っ!」 「クロト!!!」 彼女は死んだ。 「GuaaaaaaaaaaaaaooNn!!!」 轟、咆吼。 「・・何!?」 低く響く獣のような声。何処か歪な音。悲しみも止まぬままに、その咆吼の先を見るアトロ。其処には影。小さい影。塀の上に立つ、自分達と同程度の影。 「!!?」 クロトの亡骸を下ろしたラケも、その物体を望む。 微、明。月光。 雲間からの光が、その物体の姿を明確にする。それは確かにMMS、神姫だ。識別は・・・どうやらハウリンタイプだった。しかし。 「Guuu・・・」 しかしその四肢は見た事もない増加パーツで肥大化し、尾はグロテスクに長く太く、塀の向こう側に垂れ下がっている。そして、顔には、表情も見えぬほどの、分厚い鉄仮面。 「な・・に・・あれ・・・?」 アトロは、か細く、声を漏らす。気丈な彼女が、初めて、少女のように。 目次へ
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剣は紅い花の誇り 用語解説 「槙縞玩具店」 田舎の玩具店 武士達が住んでいる町の中で唯一、武装神姫のバトルが行える店である 店員は本来、皆川と店長の二名、時々店長の娘も手伝っていたらしいが、現在その娘は失踪しており、店長は恐らくそれを探す間皆川に店を任せているものと推測される 「槙縞ランキング」 「槙縞玩具店」に集まる神姫の間で自然発生した地元リーグであり、順位は皆川達がサードのレギュレーションに併せて評価したものの模様 基本的にバーチャルバトル ランカーは華墨、ヌルを含めて初期で21人。強さのレベルには相当なばらつきがあり、特に、一位のクイントスはセカンド中上位級の実力だが、17位以下はエルギール曰く「通常神姫に毛が生えた程度」らしい 傾向として、本来の製品の属性を半ば喪失した様な神姫が多い(合気めいた技を使うジルダリアの『エルギール』や、最早素体が何であったのかを推し量る事にすら意味が見出せない変形MS神姫の『ズィータ』、どんな距離でもほぼ万能に闘える上に、公式のパーツが一切使われていないアーンヴァルの『リフォー』等・・・) 皆川が店長代理になってから、年一回だった「チャンピオンカップ争奪戦」の開催は年二回に増えており、その他イベント大会も多数催されている 「ナイン」 「槙縞ランキング」一桁ナンバーの9人のランカー達を総称して使われる(厳密には、『クイントス』は別格扱いで、それ以外の8名を指して使われる事が多い) セカンドランカーが多数含まる事、マスター自作の改造武装や強化武装を施されている者が多く、現時点の「ナイン」である『ジルベノウ』『リフォー』『ズィータ』の武装には公式パーツが一切装備されていない 「ナインブレイカ-」 「槙縞ランキングチャンピオンカップ争奪戦」の変則的なルールによって、ランキング二桁以上のランカーは全て同列に扱われ、その中で勝ち上がった8名のみが、「ナイン」と対戦する権利を得る・・・言わばナインはシード選手の様な扱いなのだが、それにしても不自然な程に「上位ランカーが保護されて」いる体制である 「ゆらぎ」 神姫の個体差 神姫が身長15センチの人間として作られた以上、同じタイプでも身体能力、性格等にある程度の個性が存在し、製造段階でそういったものが発現する様に、神姫の設計にはある程度のファジーさが設けられている 必ずしも戦闘向きの能力が突出しているとも限らないが、「悪い癖」にあたるゆらぎを減少させる修行、「タクティカルアドバンテージ」にあたるゆらぎを伸ばす修行を行なった神姫は、それだけで結構な強さを発揮する事がある 以上の事から、神姫自身の持って産まれた「資質」そのものを「ゆらぎ」と呼ぶのは明らかに間違った用法なのだが、本作ではその様な表現が多用される 「オップファー」 ドイツの銃器メーカー。神姫用ではなく、普通の拳銃を主に手掛けている エルゴノミクスデザインの優美なデザインのハンドガンが有名で、代表作は.40口径ダブルカァラムの「G40」や、その小型版で、380ACP仕様の「G380d」 「ホーダーアームズ」 東杜田技研の様な、本来人間用のモノを神姫サイズにダウンサイジングしているメーカーのひとつ 主に銃器を手掛けており、12分の1「パイソン」や「エボニー アイボリー」等、実銃フィクションを問わずにやっているようだ 神姫の拳銃は本来、形はリボルバーでもオートマチックでも、使用する弾は変わらない(とどこかの設定でみた)のだが、ホーダーは12分の1「.45ACP弾」とか12分の1「5.56mmコンパクト弾」とか、訳の判らない拘りの元にモノを作っている様だ ニビル達がここの銃を愛用している 「鬼奏(キソウ)」 神浦琥珀作の刀剣を扱っている、神姫用の刃物専門店 経営は実質琥珀の家族が行っているといわれるが、その姿を見た者は居ない(いつも琥珀が店番で、居ない時は閉まっている) ルートは不明だが、世界中の殆どの(神姫用)実刀剣が手に入ると豪語する 琥珀作の刀剣は、彼女にコネが無いのであれば(あっても達成値が足りなければw)正規ルートではここで展示してある一振りずつしか手に入らない クイントスはここで武器を打って貰う事が多い様だ 現在の琥珀作品の在庫状況はこちらから 「オーバーロード」 通常では持ち得ない何らかの超常的能力を備えた神姫、またはその能力妄想神姫 通常、能力に見合った『何か』の代償もかかえており徒然続く、そんな話。 「ゆらぎ」の強烈なものというには過ぎた代物である事が多く(というよりも、「ゆらぎ」の範疇であるものは「オーバーロード」とは呼ばれないだろうが・・・)本作ではしばしば「異能力」等とも表記される事になる 華墨の脚力はオーバーロードではないが、「オーバーロード」の神姫も本作には登場する 「Gアーム」 某正義のヒーローでも、黒光りする昆虫でもない、言わば第3の「G」で現される何かw その力を使った強化武装である 武装と言っても武器の形をしているとは限らない キャロとクイントスの因縁の源、「槙縞ランキング」の真の目的、「バニシングフォー」の秘密・・・いずれのピースとしても非常に重要 「バニシングフォー」 本編第壱幕以前に、マスター共々消息不明になった四体の武装神姫 うち3体は「ナイン」であり、さらにその内2体は所謂「ランキング黎明期のランカー」である 槙縞玩具店では公然の秘密というか、タブー視されている いずれも、「槙縞ランキングチャンピオンカップ争奪戦」の開催中、開催後に消息を絶っている 「人形遣い」 神姫を素体のまま操り、相手を倒すという伝説のマスター レギュレーションから考えると本来不可能な筈なので、都市伝説の一種であろうと推測されるが・・・ 剣は紅い花の誇りTOP?
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「今回は変則的に、三Sが斬るのお時間ですワン」 「でも今日は二人」 「ええ、本日は残るお一方への、サプライズをご用意しましょうかとワン」 「サプライズ?」 「はい、先日めでたく"クラブハンド・フォートブラッグ"が完結いたしまいたので、そのお祝いにとワン」 「それ、名案」 「でしょうワン? まぁ私たちのアングラSSごときが、武装神姫SSまとめwikiの人気コンテンツである"クラブハンド・フォートブラッグ"と関係などあろうはずはないんですけれどもねワン」 「うん、建前上」 「はい、建前上ですワン」 「それでこんなに豪華」 「いきなり話が飛びましたが、これもテッコさんの芸風と受け流しまして、はいその通りですワン」 「花束……垂れ幕……軽食……クラッカー……」 「スピーチも用意してきましたワン。えー…… 『ミヤコン様ハルナ様サラ様、そのほか"クラブハンド・フォートブラッグ"関係者の皆様、この度は完結おめでとうございます。今まで私たちを楽しませてきてくれた名作とのお別れは寂しい限りですが、何事にも区切りは必要というもの、長らくお疲れ様でした。 物語にはひとまずのエンドマークがついても、その中で生きてきたハルナ様サラ様そのほかの皆様方の『これから』はまだまだ続くことでしょう。それが明るく壮健なものであることを願ってやみません。 かなうならば時折、その『これから』を垣間見ることができることを願います。 またミヤコン様におかれましては、"クラブハンド・フォートブラッグ"以外の作品ででもお目にかかれるならば、こんなにも喜ばしいことはありません。 これからの一層のご活躍を、ご期待申し上げております。 十一月吉日 "三Sが斬る"スタッフ代表 犬丸 』 ……こんなものでいかがですワン?」 「犬丸の語彙の豊富さは、武装神姫として異常」 「もうちょっと素直に喜べるお言葉を頂きたいところではありますが、お褒め頂き感謝ですワン」 「あとはゲストを待つばかり」 「はい、この部屋に入ってきましたら、まずは不意打ちで盛大にクラッカーでお出迎えをワン」 「いえっさー」 「(……と、ちょうど入り口付近で物音がワン)」 「(……テッコ、配置完了)」 「(……犬丸、同じく配置完了ワン。目標が扉を開けた瞬間、作戦開始ですワン)」 「(……Tes.)」 「(……了解の示す返答がテスタメントとは、またコアなところを……む?!)」 「(………………!)」 (窓ガラスの割れる音、続いて何か硬質なものが転がる音。そして間髪入れず、破裂音。 「グレネード!」「違う、これ陽動」「なら本命は」などの怒号が飛び交い、激しい戦闘音の連鎖する中、調度品が壊れる音が響き続け……やがて途絶える) 「制圧完了(クリア)! ハッハー、悪魔型や犬型ごときが、このミリタリー丸出しのフォードブラッグにアンブッシュをかまそうなど、10年早いと知りなさい! 何を企んでいたかは知りませんが、アンブシュしようとして逆に奇襲されていては世話はありませんね! さあさあさあ、吐いてもらいましょう、一体何を企んでいたか、いえどっちかと言えば吐かないでくれたほうが楽しい尋問タイムが満喫できて私としてはお勧めですが、さあさあさあ! ………………………………………………………………ってあら?」 「………………………」 「………………………」 「………………………」 「……まぁ、これも彼女たちらしいと思えないこともないですねぇ」 「それでいいの? それでいいのか?!」 「なんにせよ、お疲れ様でした、ということで。……いろんな意味で」 <戻る> <進む> <目次> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ 鋼の心 ~Eisen Herz~
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第三章 深み填りと盲導姫 あらすじ: 夏のある日、俺達は神姫センターでサマーフェスタを楽しんでいた。 そんな時、ある人物と出会い、神姫の一つの可能性を垣間見る事に…… 第一話:宝探姫 第二話:双銃姫 第三話:違法姫 第四話:諸刃姫 第五話:成上姫 第六話:肩書姫 第七話:激動姫 第八話:実践姫 第九話:鉄鳥姫 第十話:血戦姫 第十一話:追剥姫 第十二話:負傷姫 第十三話:再生姫 第十四話:塵刃姫 第十五話:生贄姫 (この話ではウサギのナミダに関して一部のネタバレが存在しますのでご注意ください) 第十六話:偽眼姫 第十七話:鳥討姫 第十八話:札無姫 第十九話:罪明姫 (この話ではキズナのキセキに関して一部のネタバレが存在しますのでご注意ください) 第二十話:道行姫 この物語においては以下の作品から、キャラクター、設定を借りております。 また、ネタバレの点もあるため、読む時には注意をお願いします。 ウサギのナミダ、キズナのキセキ、HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 15cm程度の死闘、Black×Bright、The Armed Princess -武装神姫- 鋼の心 ~Eisen Herz~、ツガル戦術論 トップへ
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初バトル、七月七日、七夕。 一ヶ月の間、私は数十店の神姫ショップを歩き回った。地元の茶畑が広がるような田舎では流石にショップはないので、電車で一時間、お隣の県の大都市まで足を伸ばしたり、バスで三十分揺られ最寄りの商店街をブラブラしたりした。 というのも、お兄ちゃんが買ってきた神姫、マリーは素体のままで武装やアクセサリは全く無かったからだ。私は特別バトルがしたいというわけでもなかったので、彼女が身に付けるものは彼女に選ばせようとして、彼女が気に入るものが見つかるまでいろんな店を回っていたのだった。 まずマリーはあまり実戦的ではなく、どちらかというと観賞用のウォードレスを選んだ。一応ワンピースのそれは防御力はあまり期待できないものの、フリルの可愛いディティールは全部自動迎撃用のレーザーガンで、また申し訳程度の飛行機能も付いていた。 「すごいすごい!マリーが浮いてる」 ふわふわとドレスの裾を揺らしながら彼女は私の周りを何週か回って見せた。 「便利ですわ」 彼女は私の左肩に着地した。それから私を見上げて微笑む。 彼女の笑顔は完璧、百点満点だと思った。 別の日、彼女はようやく武器を手にした。彼女は先に買ったウォードレスに合わせてその武器――ロンブレル・ロング(L ombrelle longue)を選んだようだ。 それはどうみても、日傘。日傘(L ombrelle)って名前付いてるし。武器の性能としては、ライトセーバーとライフルの能力を併せ持つハイブリッドウェポン。ライフルは威力も装弾数も実戦で使えるギリギリのレベル。まあ、早い話がこれもまた観賞用のアクセサリなのだ。 「可愛いよ、マリー」 「ありがとうございます。わたくしもこれで、いつでもバトルが出来るようになりましたわ」 マリーは傘を開いて傾きかけた日差しを遮る。淵の白いフリルが揺れた。 「え?マリーはバトルしたいの?」 左肩に座っていた彼女は私がそう問いかけると、浮き上がって私の胸前にやってきた。私が歩くのと同じ速度で移動し続ける。 「だってわたくしは武装神姫ですのよ?」 「いや、うん、そうだけど。だったらもう少し強そうな装備選んでもいいんじゃない?」 「ダメですわ。時裕様がわたくしは人形型だとおっしゃっていました。ですからわたくしは人形らしく振舞わなければいけませんの」 ああ、そういえば細かい設定は全部お兄ちゃんに任せていたな、と私はぼんやりと思い出した。神姫の性格がCSCの埋め込み方によって変わるといっても、もっと繊細なところはこちらで設定してあげなければいけないらしい。かなりめんどくさそうだったからお兄ちゃんに頼んだのだけれど、正直かなり失敗だったと思う。 「へえ、人形型なんだ」 「はい。人形型MMSノートルダムですわ」 勝手に決められたということを怒るよりも、私はやけに細かい設定に関心していた。 ノートルダムか、と考えると少しにやけてきてしまう。お兄ちゃんらしい名前の付け方だなと思ったからだ。 「でもバトルってどうやるんだろうね」 「とりあえず...ショップ設置の筐体で草バトルと呼ばれる非公式戦ですわ。」 私はふーんと鼻を鳴らしながら早速視線は最寄りの神姫ショップを探していた。 学校帰りの商店街には二店舗、神姫を扱う玩具屋があり、この近くにはそこしかバトル筐体を置いているところはなかった。 「あそこだね」 カトー模型店、商店街の長屋にあるお店としては大きいほうの店構えで、数ヶ月前に改装されたショップだ。もともと地味だった模型店がここまで立派になれるのも神姫ブームのおかげだろう。 午後五時半、私と同じように学校が終わった学生の神姫マスターたちが集まってなかなか賑やかだ。 「やあ、のどかちゃん、いらっしゃい」 「こんばんは、カトーさん」 マリーの装備を選ぶとき、最初に訪れたショップがここだった。お兄ちゃんもここの常連で、店長のカトーさんと顔見知りだということもあって、いろいろ相談に乗ってくれたのが強く記憶に残っている。カトーさんはここにないようなパーツを他の店にはあるからといって紹介してくれたりもしてくれた、いろんな意味でいい人だ。 「マリーちゃんもいらっしゃい」 「ごきげんよう、カトー様」 「ドレスモデルのウォードレスか。なかなか可愛い物を見つけたね」 マリーはスカートの裾を摘み、膝を折って行儀よくお礼をした。 「今日はお兄ちゃん、もう来ました?」 「時裕君?いや、そういえばまだ見てないなあ」 そうですか、と言って私は、私と同じ学校の学生服を着た男の子たちによってバトルが繰り広げられている筐体のほうへ視線を向けた。 お兄ちゃんは一度この店に足を踏み入れると三時間は出てこないので、もしお兄ちゃんが店にいれば、今日は止めておこうと思ったけれど、カトーさんの言葉を聞いていよいよ心臓がドキドキし始める。 「バトルかい、のどかちゃん」 カトーさんは丸い黒縁眼鏡を掛け直しながら言った。 「はい。初めてなんですけど...」 「そりゃよかった。やっぱり武装神姫はバトルが一番楽しいからねえ。次、席空けてもらうからちょっと待っててね」 そう言ってカトーさんはカウンターから出て、つかつかと盛り上がる一方の筐体のほうへ歩いていく。そして学生服の男の子たちと話始めた。 そのうち何人かが私のほうをちらっとみる。その中に同じクラスの藤井君の姿が見えたので少し手を振った。ただ私に気づいているかどうかはわからなかった。 「緊張するね、マリー」 「大丈夫ですわ。きっと」 少し経って、カトーさんは手招きで私たちを呼ぶ。私は背筋を伸ばして恐る恐る筐体へ向かい、マリーはその後を飛びながらついて来る。途中、やっと藤井君も私たちに気づいたようだった。 カトーさんの横にはこの店では珍しく、女の子が立っている。彼女もまた男の子たちと同じように私と同じ学校の制服、というか私と同じ制服を着ていた。 「丁度いい対戦相手が見つかったよ」 と言ってカトーさんは傍らの女の子の肩をぽんと叩く。 「彼女は先月神姫バトルを始めたばかりなんだ。ね、香子ちゃん」 「よ、よろしくお願いします」 その女の子は右肩に神姫を乗せたまま深々と頭を下げる。当然、彼女の右肩に座っていたジルダリアタイプの神姫は声を上げながらずり落ちた。しかしその神姫は落ちていく途中、一回転してから急に落下を止めて腕を組みながら少しずつ浮き上がっていった。 そしてそれに気づいた女の子が顔を上げて、その神姫のほうを見るまで口を尖らせ続ける。 「あ...!ごめんなさい」 「もう少しまわりに注意してくださいね、マスター」 「ごめんなさい、本当にごめんなさい」 女の子はすっかり私を忘れて彼女の神姫に謝り続ける。その様子をまわりの男の子やカトーさんがくすくすを笑った。 「も、もういいですっ。それよりみなさんが...その...見てますから...」 それが恥ずかしかったのか、女の子の神姫は少し頬を赤らめてどんどん声量を落としていった。 俯きながらちらりと私たちを見て、話を変えて、と訴える。 神姫でもそんな表情をするのか、と感心した私は急いで自己紹介をした。 「えっと、七組の月夜のどかです。こっちはマリー」 「ごきげんよう、マリー・ド・ラ・リュヌですわ」 女の子は思い出したように私たちのほうを見る。 「あ、はい、五組の斎藤香子です」 「ジルダリアのラーレです。よろしくおねがいします」 私の通う高校の一年生は、九クラス三百六十人。私は五組には一人も友達がいない――もちろん偶然だ――ので、彼女とは初対面だったことも納得がいく。 「じゃ、挨拶が済んだところで、早速バトルにしようか」 私も香子ちゃんも、そしてマリーもラーレも、そう言ったカトーさんのほうを向いてはい、と返事をした。 作品トップ | 後半
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前へ 先頭ページへ 人間が生きていく上で最低限必要な物が三つある。 一つは衣服。 一つは住居。 一つは食事。 最低限、これらがあれば人間は生きていけるという。 が、しかしだ。 それらはそこらかしこに転がっている訳ではない。 それらは何の労力を使わずに入手出来る訳ではない。 それらを揃えるのに必要なものが一つある。 金だ。 この世で最も大事な物の一つ。 そして、人間が生活していく上で必要不可欠な物。 それはそこらかしこに転がっているかもしれない。 しかし、それは雀の涙程でしかない。 それは何の労力も使わずに入手出来るかもしれない。 しかし、それも雀の涙程だ。 生活していく為に充分な量の金を稼ぐには、汗水垂らして働くしかない。 それが金という物だ。 今日は快晴、気温も寒すぎず暑すぎずにすごし易く、風もそよ風程度。 外出にはもってこいの一日だと言える。 そんな日には弁当の一つでも持ってピクニックにでも行きたくなるのものだ。 この俺、倉内 恵太郎もそんな素敵な気分に晒されながら今日という素晴らしい一日を満喫していた。 「マスター、ジェットスラスターのタービンはどれを使いましょうか?」 「レニオスの8型で頼む」 カーテンの隙間から差し込む僅かな日光が薄暗い部屋に充満するほこりを照らし出している。 狭い部屋にはところ狭しとぼろぼろのダンボールが詰まれ、破れた箇所から金属のようなものがはみ出している。 部屋の中央に鎮座するちゃぶ台の上には大量のパーツが詰まれている。 そのちゃぶ台を挟み、向かい合うように座る俺とナル。 俺はPCに向かい神姫との神経接続とパルスの強弱、信号の精度を設定している。 ナルはその手に神姫用多目的ツールを、背部にストラーフ本来の機械腕を装着し、神姫サイズの精密機械相手に格闘している。 「マスター、島田重工の箱を取って頂けますか?」 「あいよ」 俺はPCから視線を外し、重い腰を上げた。 狭い部屋を見回して島田重工と書かれたダンボールを探す。 何を隠そうこの周囲に詰まれるダンボールの山、その全てに神姫用パーツが満載されている。 EDEN-PLASTICS、島田重工、BLADEダイナミクス、カサハラ・インダストリアル。 神姫好きなら一度は聞いたことのあるであろう企業の純正品、それらが大量に死蔵されてるのだ。 元を正せば俺が店頭で見かける度にちょくちょく買い漁っていたのが原因なのだが、男という生き物はいつまで経ってもそういう事が好きなもので、幼少の頃はプラモを山のように買っては積んでいたのを今でも覚えている。 それはさておき、案の定買うだけ買って全く使わないパーツも多数ある。 否、その九割が未使用で新品同様だ。 一割はナルの内部機構、旧銃鋼、ブーストアーマー等多数に一応使ったのだ。 だが、それでもまだ大量に使い道の無いパーツが積まれているのだ。 以前は買うごとにナルのお小言を頂戴するハメになり、心身ともに疲れたものだ。 だが、今は違う。 俺の財政を圧迫していた大人買いも今は俺の財政源となっている。 武装神姫の由縁たる『武装』。 それは企業・個人問わず多種多様な武装が市場に溢れている。 大抵、そういうものは大企業か著名なデザイナーが販売するのが普通だ。 しかし、大々的では無いものの、個人による武装販売というのも確かに存在する。 個人はイベントやインターネットを介した自作武装の販売が一般的である。 そう、何を隠そうこの俺も神姫の自作武装を販売する人間だ。 俺の場合はインターネットを介し、客の要望を聞く。 そして、予算や期間などを見積もり俺とナルが武装を製作し、客に郵送する。 これがまたかなり儲かるのだ。 一般に広く普及した神姫の用途は基本、バトルだ。 今は街中に留まらず学校の中にまでバトルスペースを導入している。 供給があるのは需要があるからだ。 そして、神姫の広いカスタイマイズ性。 人は基本的に人と同じ、というのを嫌うものだ。 その結果、市場には細かな神姫用のパーツが氾濫し、自分だけの神姫を作ることが出来る。 それでもまだ、人と被る事を嫌がる人間もいる。 俺の客はそういう種類の人間だ。 完全オリジナル。 オーダーメイド。 フルスクラッチモデル。 そういう言葉をちらつかせれば如何に無名の俺と言えど、それなりに客は引っかかるのだ。 が、だからと言って手抜きは一切しない。 ネジ一本からCPUに至るまで、品質には気を配る。 武装の試運転は念入りに行い、誤作動など無いようにする。 武装の品質がそのまま俺への信用に繋がるのだ。 「…これだな」 ベッドの上に山済みにされたダンボールの海の中、目的のダンボール箱があった。 俺は足元に注意しながらそこに近づき、周囲のダンボールを掻き分けてそれを持ち上げた。 顔の直ぐ下にあるダンボールから立ち上るホコリと機械油の臭いに顔をしかめながらナルの元へとそれを運ぶ。 「お待ちぃ」 中のパーツが傷つかないように心なしゆっくりとダンボールを床に下ろす。 「ありがとうございます、マスター」 そういうと、ナルはストラーフの機械腕を稼動させてダンボールを開け、ビニール袋に包まれたパーツ類をちゃぶ台の上に乗っけていく。 俺も再びPCに向かい、自分の作業に戻ることにした。 『ピンポーン』 来客を告げる呼び鈴が久しぶりに鳴り響いた。 扉の前には「新聞勧誘お断り」と「キャッチセールスお断り」のシールが張ってあるのでその線は無いだろう。 だとすれば大家の家賃収集か宅配便だが、どちらも心当たりが無い。 考えられるとすれば―――考えたくはないが―――警察というのも有り得る。 多少緊張を孕みつつ、俺は音を立てないようゆっくりと立ち上がった。 足元を覆いつくすダンボールを蹴らない様に注意しつつ、そう遠くない玄関へ向かう。 『ピンポーン』 台所が隣にある玄関へと辿り着いた俺はまず、覗き窓から外の様子を伺うことにした。 が、その時。 「しーしょー!お見舞いに来ましたー!」 玄関の扉をドンドン叩きながら大きな声で俺の事を呼ぶ声がした。 「アリカ、近所迷惑よ~」 覗き窓を見るまでも無く、そこにいるのがアリカと茜の二人であることは容易に想像できた。 (空けたくねぇ…) 今この扉を開ければ作業は中断を余儀なくされるだろう。 しかし、開けない場合はアリカはしつこく扉を叩き続け周囲に騒音を撒き散らすだろう。 そうなった結果、お隣さんとの付き合いが悪くなる可能性も充分にある。 近所付き合いの悪化によってかつては殺人事件さえ引き起こしたと聞く。 作業の締め切り自体はあと数日残っている。 「…いるから静かにしてくれ」 俺は観念して扉を開けた。 「お邪魔します、師匠!」 「出来れば邪魔はして欲しくないがな…」 扉を開けた瞬間、アリカはずけずけと部屋に上がりこんだ。 俺はそれに軽い眩暈を覚えた。 「どうしてもアリカが気になるからって来ちゃいました」 止めようと思えば止められた筈の茜も茜だと思ったが、それは口にしないで置いた。 「師匠…どうしたんですか?」 扉を閉め、振り返った俺に浴びせられた言葉は実に酷いものだ。 「すんごい散かってる…」 アリカは部屋を見回しながら言った。 「ダンボールには触るなよ」 俺はそういうと、足元のダンボールを数個持ち上げて隅に積んだ。 そうして出来たスペースに座布団を投げ置くとアリカと茜に言った。 「とりあえず座れ、話はそれからだ」 「それじゃあ失礼しま~す」 「今日は本当に散かってますねぇ、どうしたんですか~」 それぞれ違うことを言いながら座る二人を尻目に、俺は茶を淹れる為に台所へと向かう。 小さな食器棚の扉を開け、茶葉筒を取り出し蓋を開ける。 (…腐ってはいないか) 最後に開けたのが何時かは思い出せないそれだが、臭いから判断するに腐ってはいなさそうだ。 それを確認した後、ヤカンに水をいれてコンロにかけた。 水が沸騰するまでの間に急須の用意をする。 茶葉を適当に入れて湯のみを取り出す。 後は水が沸くのを待つだけだ。 「そうだ師匠、どうしたんですか学校に休学届けなんか出して!」 居間にいるアリカが声を張り上げて言った。 俺がアリカに背を向けていると言え、そんなに大きな声で言う事もなかろうに。 「…茜に聞け」 俺が説明してもいいのだが、それはそれで面倒くさい。 第一、アリカに俺の個人的な事情を話す義理もない。 しかし、今の俺がすることばアリカを早急に立ち去らせることだ。 茜に任せておけば、多分上手く説明してくれるだろう。 「何で?」 アリカは首だけをくるりと茜の方に向けた。 「先輩はねぇ…大学に入学した直後、新手の詐欺にかかって多額の借金を負ってしまったの…それを返済するために暇を見ては内職を…」 前言撤回。 ハンカチを片手に目じりを拭うようにしながら平然と嘘を付く茜。 しかし、その口元は確かに笑っている。 「師匠…本当なんですか!?」 ばっ、と振り返り涙目で俺を見つめるアリカ。 「んな訳ねーだろ」 それから視線を外して沸いたお湯を急須に注ぐ。 「先輩ノリが悪いですね~」 急須を軽く回しながら悪びれようともしない茜をどうしようかと頭を痛める。 「なんでウソ言うのよッ!」 「人生を面白くするのは一つの真実、百の嘘なのよ~」 女が三人寄れば姦しいとは良く言ったものだが、この場合二人寄ったら喧しいだ。 「とりあえず騒ぐな」 湯気の立つ湯呑みを二人の前に置き、俺も適当に場所を開けて腰を落とした。 とりあえず俺も茶を飲む事にした。 我ながら丁度良い濃さで淹れられており、大変おいしい。 「…で、師匠。なんで学校休んでるんですか?」 同じく茶を飲んで一段落着いたアリカが口を開いた。 どう説明したものか、俺は湯呑みを睨みつつ数瞬逡巡した。 「マスターが大学に休学届けを出したのは学費と生活費を稼ぐためです」 俺の前方、ちゃぶ台の上を台拭きで拭きながらナルが言った。 「そうなの?」 「はい。マスターと私で神姫用の武装を製作し、それを販売することで学費と生活費を稼いでいるのです」 俺が言わんとすることを手短に説明してくれた相棒に俺は視線だけで礼を言った。 「…でも、なんで学校休む必要あるんですか? 施設とかなら学校の方が整ってると思うんですけど…」 アリカが部屋を見渡しながら言った。 なるほど、確かにこの部屋は神姫の武装を作るには適さない。 アリカにしてはなかなか的確なツッコミだ。 「あのだいが」 「あの大学は研究以外での施設利用は禁じられてるのよ」 俺が説明しようと口を開きかけたその瞬間、茜が先に言ってしまった。 俺は半開きの口を渋々閉じて、その後に続く説明を考える。 「へ、どうゆこと?」 アリカは小首を傾げている。 「あそこはな」 「あの大学は研究以外では一切の機材・施設を使わせないのよ」 コイツ、絶対にワザとやってやがる。 その証拠に楽しそうな眼で俺のことを見てやがる。 「…だから、俺はココで内職してるんだよ」 他に言うことが無いので何とか締め括ろうと言葉を紡ぐ。 これまでの情報を統括すれば普通の人間ならとっとと出て行くだろう。 「そっか…師匠って大変なんですね… アタシに何かお手伝いできること無いですか!」 そんなささやかな願いは無残にも打ち砕かれた。 「いや、それよりとっととかえ」 「そうよね、先輩も一人じゃ大変よね」 更に踏み砕かれた。 結局、あれから無理やりアリカと茜は俺の仕事を手伝った。 茜はまだ良いが、アリカは本当に邪魔というしかなかった。 パーツを探すと言ってはダンボールを引っくり返し。 パーツを組み立てるといっては盛大に失敗し。 それに懲りて差し入れを作るといっては台所を爆発させ。 そんなこんなで日も暮れて、本気でアリカと茜を帰そうと言う事に相成った。 「うぅ…師匠、スイマセンお邪魔してしまって…」 アリカは全身ホコリとススと得体の知れない汚れだらけになりながらヘコヘコ頭を下げている。 帰るときに説教の一つでも垂れてやろうかと思ったが、そういう態度を取られるとどうも辛い。 「分かったからとっとと帰れ」 俺の態度はどっからどう見ても不機嫌そうに見えたことだろう。 本当の所、ありがとうの一言でも言ってやりたいところだがどうも喉辺りでつっかえてしまう。 「それじゃあ、先輩。お仕事頑張って下さいね~」 茜は茜でいつも飄々としているが、今この時だけはかなり楽しそうに見える。 「ああ、先輩達によろしくな」 「孝也先輩にもよろしく言っときますね~」 明らかに顔を顰める俺に、茜はさも面白そうに微笑んだ。 全く持って食えない奴だと思う。 「…それじゃ師匠、失礼します」 アリカはペコリと頭を下げるとトボトボと歩き出した。 それに一歩遅れて茜が歩き出す。 が、一瞬俺の顔を見やがった。 何故か凄まじい罪悪感を感じる。 「……試作品出来たらバトル付き合え!」 自分でも何でこんな事を言ったのか解らない。 だけど、喉から勝手に出てきてしまったのだから仕方が無い。 アリカはびくりと身体を強張らせ、一瞬の後勢い良く振り返った。 「はい! 喜んでッ!」 満面の、こちらまで嬉しくなる様な屈託の無い笑み。 釣られて笑いそうになるのを必死で堪える。 「それじゃっ!」 そう言うとさっきとは打って変わって早足で帰路に向かった。 茜も軽く頭を下げ、アリカを追った。 その表情も、アリカ程ではないが良い顔だった。 俺は一瞬二人の姿を見送ると、直ぐに玄関の戸を閉めた。 「ふぅ…」 何故か溜息が出た。 確かに疲れた。 けど、嫌な溜息ではない。 「マスター、楽しそうですね」 俺の胸ポケットからナルが声をかけてきた。 「そうか?」 「ええ、凄く楽しそうです」 俺にはその自覚は一切無いのだが、ナルが言うのだからそうなのだろう。 「楽しい、ね…」 思い返せば楽しい、と実感した事など余り無かった気がする。 幼少の時分には一度だけ遊園地に連れて行かれた事もあるが、両親共にジェットコースター初めあらゆる乗り物がダメで、俺が介抱してた嫌な思い出しかない。 小学校の頃も無愛想なガキだったと思う。 友達も人並みにいたが、深夜の学校に潜り込むとか下水道探検するとかそんな事も無かったので対して思い出に無い。 中学・高校と勉強積けだったので楽しい、と思う暇も無かった。 いや、ナルと出会ってからは変わった用に思う。 勉強一辺倒の高校生の時分に初めて神姫を手にして以来、神姫にどっぷりと嵌ってしまった。 学校が終われば直ぐにセンターに赴きバトル三昧。 「マスター、どうしました?」 ぼーとしてたのだろう、ナルが気遣わしげに声をかけてきた。 「いや、ちょっと考え事をね」 あの時の楽しいは違う。 今のナルの顔を見ると心底そう思う。 やがて大学に入り、入学式で裕也先輩と裕子先輩と出会った。 あれから一年と少ししか経っていないけど本当に、色々あった。 思い返せば泡の様に記憶が浮かび上がってくる。 裕也先輩に引っ張りまわされた事。 裕子先輩に叱られた事。 孝也に付き纏われた事。 茜に弄られた事。 そして、アリカに出会った事。 驚くほどに密度のある毎日だった。 「…今日の仕事はこれくらいにしとくか」 「マスター?」 その毎日のきっかけは、武装神姫だった。 「締め切りまでまだ時間はある。たまには骨抜きでもしないとな?」 「マスターがそう言うのでしたら…」 武装神姫を通じて知り合った皆。 「今日は鳳凰杯の特番があったな、それでも見よう」 「そういえばもうそんな時期ですね」 その毎日を齎してくれたナルに、最大限の感謝を。 先頭ページへ 次へ
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ストラーフが最初で、アーンヴァルが最後とかよくわかっていらっしゃる - 名無しさん 2015-01-12 14 47 37